ユートピアンは、未来を見据えながら創造的かつ内発的な意志力によってものを考える。一方リアリストは、過去に根をおろしつつ因果関係によってものを考える。あらゆる健全な人間行動、したがってあらゆる健全な思考は、ユートピアとリアリティとの間に、そして自由意志と決定論との間にそれぞれバランスをとらなければならない。完全無欠のリアリストは物事の因果関係を無条件に受け入れるので、現実を変えていく可能性を否定してしまう。完全無欠のユートピアンは因果関係を拒むので、彼が変えようとしている現実、あるいは現実が変えられていくプロセスを理解することができないのである。ユートピアンの典型的な欠陥は無垢なことであり、リアリストのそれは不毛なことである。
E.H. カー「危機の二十年 理想と現実」